箸の指導に戸惑う保育者について ▶4歳児担任・勤続3年目の保育者より

Q

本園では今年、食育に重点をおいて取り組んでいます。私は、年中児の担任なのですが、子ども達は、自分が使いやすいように箸を持つため、とても変な持ち方をしています。園長先生からも、正しい箸の持ち方を指導するように言われているのですが、なかなか上手くいきません。私が、何度も子ども達に注意するため、箸を使って食べることを嫌がる子どもも出てきてしまいました。どうしたらよいのでしょうか。

A

:食育は、知育・徳育・体育の基礎になるものです。人間の命を営む『食べる』という行為を、教育のひとつのチャンスにしようという考え方は、国の方針にもなっていますから、園の先生が真剣になられていることは、とてもよくわかります。正しい箸の持ち方の指導も、確かにそのひとつですね。
:ご相談者の先生が担任されている年中組の子ども達が、とても変な箸の持ち方をしているということですが。
:箸を持つことは、手の運動機能の発達そのものと言っていいくらいに関わりがあります。個人差もありますが、きちんと箸が持てるようになるのは、平均7歳と言われているのです。3・4歳の年中組の子ども達に、箸の持ち方を教えるということは、やさしい事ではないと思います。焦らないことが大切です。
ただ、食育の中で一番大切なことは、楽しく食べることです。どんなに食事に栄養があっても、どんなにお行儀よく食べることができても、子ども達にとって、食べることが苦痛になるようなら、食育にはつながりません。箸の持ち方など、目に見える成果だけではなく『子どもが楽しく食べる』という第一のものを損なわないような指導が大切でしょう。
今すぐ正しく持つように注意するのではなく、正しい持ち方を目標とすることだと思います。できるかできないかのチェックではなく、子ども達が、箸という道具に興味を持ったり、上手に使えるようになることを自ら、進んで目標にできるような働きかけが必要です。
:どのような働きかけをしたらよいでしょうか。
:「箸が上手に使えるようになると、とても素敵な食べ方ができるようになって、みんながとっても立派に見えます」
「箸って、仲よく2本で働くでしょ?でも1本は動かないで、もう1本が動くんです」
「箸を動かしているのも、動かないように支えているのも、指です。指ってすごい力がありますね」
「どの指が、箸を動かして、どの指が動かさないでいるか、見てみましょう」というように、指の働きや、箸の動きを意識化させることも、効果があると思います。
:食事だけではなく、どんぐりやおもちゃを箸で挟むような遊びを取り入れることなどはどうでしょうか。
:それは、大変良いことですね。子どもの小さな手にあった箸を用意してあげて、食事以外に箸を使う活動を、遊びとしてを経験させてあげることは、ひとつの方法だと思います。
:ご相談では、何度も子ども達に注意するため、箸を使って食べることを嫌がる子どもも出てきてしまったそうですが。
:きっと、お若い先生の食育に対する緊張が、そのまま子ども達に移り、不安にさせたためでしょう。けれども、園長先生も『子どもが楽しく食べる』ことが第一であるというお考えのはずですから、『正しい箸の持ち方の指導』だけを言葉通りに受け止めるのではなく、安心して、自分なりの目標を定めてゆとりを持って取り組むことが大切です。
食事をしながら食べ物の色を聞いたり、大きさを聞いたり、食べたことがあるかどうかを聞いたりしながら、食事が楽しくなるような雰囲気作りを、考えてみてはいかがでしょうか。
気がつくと、正しく持てるようになっていることは、いくらでも考えられることです。まだ、年中組みですから、ゆったり構えて、子ども自身の成長しようという意欲を、先生の願いと上手に一致させることで、お互い楽しく目標達成ができるでしょう。

(ラジオ番組「楽しい子育て」より)
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