子どもに記憶力をつけたいお母様について ▶6歳女児のお母様より

Q

年中組に通う一人娘の教育には、出来る限り精一杯の事をしていきたいと思っています。
子どもが小学校へ通い始めると、ひらがな・カタカナをはじめ、覚える事がたくさんありますよね。子どもに記憶力をつけるために、今からできること、指導のコツなどがありましたら教えて下さい。

A

: 一人っ子のお子さんの小学校入学を間近にして、期待で胸を弾ませておいでのようですね。とにかく、小学校でのお勉強をよくできるようにしたいと強く望んでおいでなのですね。それは誰でも、そう願いますよね
小学校のはじめのお勉強である、ひら仮名、カタ仮名、足し算、引き算などは、昔でいう『読み書きそろばん』といった、基礎的なものですから、成長・発達と共に、たいてい誰でも身につける事が出来るものです。早い遅いは、あまりに気になさらなくてよいでしょう。
むしろ、その基礎的なものに『正しく・きれいに』というような目標を持たれて、お子さんと共にチェックし合うと、お子さんも自身が付くし、お母さまも、安心できるでしょう。その時、たとえ完璧に出来ていなくても
「この字、きれいな字ね」
「すごい!正解!よくできたわね!」
といったお母さまの励ましや、褒める言葉がいつでもあると、お勉強を楽しいものにし、いわゆる、『勉強ぐせ』という勉強の習慣づけにもつながっていきます。これは、学力をつけるために、最も大切な事です。
:その学力をつけるために、記憶力をつけたいと思っているようですが。
:確かに記憶力は大切なものですが、子どもの心の中に、確実に残ったものでなければ、記憶とも言えませんし、ましてそれが力として活用されることはありません。先ずは、記憶とはどういうものかということを、しっかり認識する必要がありますね。
:どのように、認識したらよいでしょう。
:記憶は、子どもが経験した事や、新しく知ったことを、自分の生活と関連付けて『覚えこみ、忘れずにいること』をいいますから、子どもが新しく得た知識をいかにして、自分の物にできるかが、大きなポイントになります。
ただとにかく、まる覚えで暗記した50音や九九のようなものも大切ですが、新しい知識として、さらに発展させ、学力として向上させていくためには、もう少し丁寧に、記憶のメカニズムについて、考えておくと良いと思います。
:どういうことでしょうか。
: 難しい言葉でいえば、記憶の形成は『再生』『再認』『再構成』であると云われています。つまり、何かの経験や知識が、記憶として残るためには、まず過去に経験した事を、思い出し、再び自分の心の中に、よみがえらせて、それがどんなものであったかを確認して、さらにもう一度、今の自分の経験や、考えている事と結び付けるという過程をたどるものです。よほど、心にしっかり捉えたものでなければ、再びよみがえらせるということは、難しいです。例えば、子どもの描く絵は、記憶力と深い関係があります。
:どのような関係でしょうか。
:運動会や遠足、クリスマス会や節分の豆まきなどの後に描いた、子ども達の絵は、最も心に焼きついたものが、見事に描きだされます。楽しく豊かな経験、強烈な印象が土台にあるからです。始めから、覚えこませよう・教えこませようとしたものでなく、子どもが自ら、主体的に関わって、自分自身で感じ、獲得したものが記憶として残り、表現されているという点において、最も深いかかわりがあります。
:たしかに、子ども達の絵は、子どもの心の世界を知る参考になります。
ところで、このお母さまは、その記憶力をつける指導のコツなど、今からできる事はあるかと、おっしゃっていますが。
:幼児期にはまだ、文字で学ぶ力が十分ではありません。大人は学習は、文字によるものと勘違いしている傾向がありますが、ほとんど、目と耳とをとおし、つまり生活の中の、具体的な体験の中でたくさんの新しい知識を獲得していきます。ですから、日常の生活を、温かく楽しく、豊かなものにし、その中から学びとらせる工夫をすることが、最も効果的な方法、つまり『コツ』となるでしょう。
生活を教材化し、楽しく印象深く、ひとつひとつの経験をかさねていくことで、気付かぬうちに学習の土台となる素材が記憶され、それが力として発揮される時が来るはずです。

(ラジオ番組「楽しい子育て」より)
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