期待する気持を先生に伝えられないお母様について ▶3歳女児のお母様より

Q

娘が園に通い始めて、一ヶ月が過ぎました。おとなしいタイプの子どもなので、先生になかなか声をかけることができないようです。娘は家に帰って来てから「園で服が汚れた時に、着替えたかった」「お昼ごはんの時に、自分だけスープがなかった」「トイレに連れて行ってもらえなかった」などと話します。
私は、娘が自分で先生に言えなかったことも悲しいのですが、先生にも気付いて欲しかったと思ってしまいます。通い始めたばかりの園の先生に、最初からこんなことを感じてはいけないのでしょうが、これから先生と、どのようにお付き合いしていけばいいのか悩んでいます。
そしてできれば、娘も、自分の事は自分で伝えられるようになって欲しいのですが、どうしたらいいのでしょうか。

A

:初めてのお子さんが、入園したばかりのお母さまのご相談ですね。いろいろな期待でいっぱいなのでしょう。おとなしいタイプのお子さんならば、なおさら、ご自分がすべて代わって伝えてあげたいと思っておいでのお気持ちはとてもよく分かります。
ただ、4月の入園時のゴタゴタは、想像に絶するものです。登園から降園まで泣き通しの子や、ひとりでお手洗いに行けない子の世話など、先生は手が何本あっても足りないような状態ですから、気がつかない事や見落としてしまう事もないとは言えないでしょう。
:服が汚れた時に着替えたかった、ということですが。
:元気に遊んだのでしょうね。汚れるほど遊んだのなら、先ずそれで一安心、素晴らしいことです。びしょ濡れになったとか、どうしても着替えなくてはならなかった状態ではなかったのかもしれませし、先生もうっかりしてしまったのでしょう。園ではよくあることですから。
お家に帰ってきて、園で着替えたかったと言ったら
「あら、そうだったの。あなたはキレイにするのが好きなのね。嬉しいわ」
「先生はきっと、忙しかったのね。お家でキレイにして、ステキな洋服に着替えましょうね」とお母さまが言う事で、お子さんはますますお母さまが好きになるでしょう。
:お昼ごはんの時に、自分だけスープがなかったということですが。
:「先生、スープがありませんって言えなかったの?じゃあおなかがすいたわね。今夜、夕食に沢山いただきましょうね」などと言いながら、食欲があったことを喜ぶといいでしょう。給食を食べる意欲があったことも、とても安心な事です。
:トイレに連れて行ってもらえなかったそうです。
:どういう状態だったのかわかりませんが、入園当初は、『おトイレ電車』などといって、クラス全員でお手洗いに行くのが普通です。ひとり残されてしまったということは、みんなと一緒に行かなかったということだと想像できます。それはお子さんがすでに、トイレに行きたいタイミングを、わかっていたからでしょう。素晴らしい発達だと思います。そんな時は
「まぁ大変!おもらししちゃったの?」と聞いて、そうでなかったら、
「トイレにいく時が、自分でわかるなんて、○○ちゃんはおりこうね。お母さん、とっても安心したわ」と言うことで、ますます基本的生活習慣の自立を促すことにつながります。
:これらのことを、娘が自分で先生に言えなかったことも悲しい、ということですが。
:お話をうかがってみると、考えようによっては、成長の証のようなものばかりなので、むしろ喜んだり、安心したりする方が良いでしょう。
:先生とどのようにお付き合いしていけばいいのか悩んでいます、ということですが。
:お母さまにしてみると、たくさんの期待をお持ちでしょうから、先生に満足できないというお気持ちもとてもよく分かります。けれども、直接的にその思いを園に向けると、緊張関係が高まって、目的の達成ができず、お子さんのためにも、誰のためにもなりません。
視野を広げ、何人もの子ども達を、いちどきに見なければならない、入園時の園の実態を想像するだけで、きっとうまくやっていけると思います。温かな人間関係は、想像力から生まれるものです。園から無事に帰ってきたらOK、というくらい、大らかな気持ちで、幼児期を考えていくと、子どもも先生も、お母さまもゆとりを持てて楽しめるでしょう。
:お子さんには、自分の事は自分で伝えられるようになって欲しい、ということですが。
:子どもの言葉の発達の課題の中に『自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう』ということがありますが、お子さんがして欲しいことやしたいことを、先生に話す勇気を持てるように、励ますことから出発するとよいと思います。
「先生、○○してください」と言うことができたら、先生はきっと、褒めて喜んでしてくださるでしょう。
ですから、
「今度は、先生に○○して下さいって、言ってごらんなさい。きっと先生は、あなたがとても賢いよい子だと思って、して下さるわ」
「して欲しいことを何も言わないで、先生が、○○してくれなかったっていう言い方は、しないほうがいいわ」
というような言い方と共に、お母さまに対しても、して欲しことやしたいことを自分の言葉で言えるように、日常的に励ましていく必要があると思います。

(ラジオ番組「楽しい子育て」より)
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